すららネット×日本数学検定協会 トップ対談

デジタル情報時代に必要な数学的思考と
共同開発した新ICT教材「仕事に役立つ数学基礎コース」に込めた思い

すららネットと公益財団法人日本数学検定協会は、学生や社会人向けに数学的思考の土台を固めるICT教材「仕事に役立つ数学基礎コース」を共同で開発し、2024年3月にリリースしました。新教材リリースを記念して、すららネットの湯野川孝彦代表取締役社長と日本数学検定協会の髙田忍理事長が、数学力や数学的思考が必要となった背景や現状の課題、新教材に込める思いについて対談しました。

 
株式会社すららネット湯野川孝彦代表取締役社長(左)と公益財団法人日本数学検定協会髙田忍理事長(右)

今、学校や学びの場に起こりつつある大きな変化

――数学というと学問のイメージが強く、小・中学校の頃の苦手意識をもったまま大人になった方もいるかもしれません。学びという点で、これまでと変わってきた点はありますか?

湯野川孝彦代表取締役社長(以下、湯野川)「学力試験の問題傾向が変わってきています。昔は一夜漬けで覚えれば、後は忘れてもなんとかなったかもしれませんが、今は暗記で対応できるような問題が少なくなりました。どういう形式の問題が出るかがわからない、そもそも何の科目の試験なのかがわからないような問題が出題される状況になってきています。例えば、データがあって、地図があって、会話があって、それらを元にあなたはどう判断しますか、という類の問題です。英語の問題であっても、数字を処理していくといった内容のものもあります。つまり、自分で情報を分析して判断して、状況を把握する力が必要になってきています。実は社会に出てから私たちは、気が付かないうちにそういうことをしているのですが、学校や学びの世界がどんどん実践的なものになっていて、大きな変化が起こりつつあると感じています」

髙田忍理事長(以下、髙田)「確かに。今は『10=』の世界になっていると感じています。どういうことかというと、昔は一方通行的に『1+9=』といった数式に、10というひとつの正解を答えるものでした。それが『10=』となると、答えは無限にあるんですよね。例えば、2+8もあれば、2×5といった答えもあるし、100010-100000も10です。人によってさまざまあるのですが、なぜこの式を選んだのかということが大切になってくるんです。『10=』の世界では10も単なる数ではなく、課題や目標など意味のあるものになってくるわけです。自分たちが今まで習ったことを、とにかくつなげて、もっといいものはないかといった手法を考え生み出し、選んでいくといったことが必要で、そういうところで当然、学び方もどんどん変わってきているのではないかと思います」

 

ビッグデータ社会、生成AI時代と激変する時代に重要な基盤

――文系、理系は関係なく、情報を分析し、数字を読み解き、それを活かす力を身につけることが大切になってきているのですね。こういった学びの変化には、ビッグデータ社会の到来といった世の中の流れが影響しているのでしょうか?

髙田「ビッグデータやAIなどを使いこなすためには、文系、理系で分けるのではなく、むしろ文理系とでもいいましょうか、融合された学びが必要だと感じています。近年、サイバー空間とフィジカル(現実)空間を高度に融合させた社会Society5.0の実現や、AI人材を教育するための教育改革や技術体系を確立するための仕組みを政府が戦略目標として定めた『AI戦略2019』などもありますが、日本ではデータサイエンスやDXの人材が不足しています。この人材育成というのが重要で、その基盤となるのが基礎的な数学力、数学的思考だと考えています。最近では、大学でデータサイエンス学部が増え、軒並み倍率も高まっていると聞きます。なりたいという人も増えているので、世の中の動きに対して人も徐々に変わってきている印象はあります」

湯野川「Society5.0でいうと、同じものを大量生産する工業化社会の時代であれば、決まったものを作るわけですから、多くがいかに早く正確にやるかといった答えが決まっている世界だったと思います。しかし今は、ロボットが入ってきて、生成AIも出てきて、なんでもできる世の中に激変しました。その中で、答えがあることをやるのではなく、答えがないようなことをやる多品種少量生産とか、サービスのソフト化といった、複雑で判断を求められることを人間がやる必要があるわけです。そういう社会にちゃんとプレゼンスを保とうとすると、教育自体も変わっていかざるを得ない状況になっているのだと思います」 

課題解決や目標達成の道標としての数学

――学びの場での変化、世の中の流れなどのお話を伺って、数学がさまざまなシーンで必要だということがわかりました。数学的思考の土台作りは大切ですね。

湯野川「答えが明らかにある問題を解いて正解を出すということではなくて、答えがあるようでない、正解がないようなことに対してソリューションを考える、そもそも課題なきところに課題を考え、状況を捉えて問題点を見つけていくことが必要になってきています。単に言われたことをやっておけばいいのはなく、自分の頭で考え、自ら新しい分野に進む力がますます求められており、その道標として、数学というものがどんどん必要になってきています」

髙田「未来を考える時、今何が行われていて、過去にどうだったのかを比較しながら予測を立てますが、そこには今と過去のデータを比較しながら、分析をして、目標を立てて、共有しながら課題を解決していくという場面が必ず起こるわけです。例えば近年注目されているSDGsで考えても、数学は大きく関わっていると感じています。当協会では、世界中の人々に生涯にわたる数学への興味喚起と数学力の向上につなげる取り組みを進めていますが、この取り組みは2030年までに実現するSDGsの17の目標の4にある『質の高い教育をみんなに』に合致するものです。ただしSDGs全体の課題解決や目標達成を考えれば、数学は4だけでなく、17の目標すべてに関係してくるものだと感じています」

湯野川「データを分析して自分で正確に物事を捉えることができるようになれば、より正しい判断ができるようになります。一人ひとりの数学力が底上げされることで、その集合である社会が良くなることにつながっていくのではないかと思っています」 

「仕事に役立つ数学基礎コース」を共同開発することになった経緯

――4月にリリースされた新サービス「仕事に役立つ数学基礎コース」を、すららネットと日本数学検定協会とで共同開発することになった経緯を教えてください。

髙田「もともと当協会ではビジネス数学検定を実施しています。新入社員や大学生向けに、日常生活や実社会・ビジネスの場面で必要とされる、数学力や数学活用力を測定する検定です。数学の内容としては、小・中学校の義務教育で習った範囲が多いのですが、合格率などからあまり定着していない分野があることに気付いたんです。割合や分数、比率などといったところです。先日、ある大学で検定受検前に基本的な講義をする機会があったのですが、例えば円グラフの割合を全部足すと当然100%と答えると思ったら、ある学生さんから120%といった答えが出てきたんですね。どうしてそうなったのかと聞くと、『広告で120%頑張りますという文言を見た』というんです。それをそのまま円グラフにも当てはめちゃっているんですね。そういった割合や分数、比率など定着していない分野の学び直しを、学校教育だけで行うことは難しいところがありました」

湯野川「ビジネス数学検定で出題される内容は、富士山でイメージすると7合目から上の部分にあって、そこまで登る力がない人が意外と多かったということなんです。髙田理事長がおっしゃっていた同様の現象には我々も気付いていて、当社が開発提供しているICT教材『すらら』の小中高生ユーザー40万人以上のビッグデータを分析していくと、高校生であっても小学校の分野でつまずいていることがわかります。例えば、方程式の問題で正答率が低いので、なぜ低いのかを分析していきます。そうすると方程式がわからないのではなく、そこに分数が出てくると全然解けなくなっている。つまり約分・通分がわからないということです。約分・通分は小学校で習うものなのですが、すでにそこでつまずいているのです。この点は、大学においても問題になっているところでもあります」

 

弱点分野をすららネットのAI教材で学び直し、数学力を底上げ

――分数や割合、比率といった小学校分野からの底上げが必要というところで合致したということですね。 

髙田「もともと小・中学生向けの数検では、すららネットさんとは10年以上のお付き合いがあり、学校教育の中でもAIなどを使って展開していることも知っていました。学生の義務教育の算数、数学の学び直しについて、大学の教授は研究者なので教えられることではありません。当協会のビジネス数学検定の合格率を上げるためにも、学びに対してポジティブに取り組むすららネットさんと一緒に作れないかな、ということになりました。すららネットさんの教材は、アニメーションが出てきたりして、アダプティブに進んでいくので前向きに学べます。この先も数学で学んだ知識はどこかで使えるよというメッセージ性を出しながら、すららネットさんと作っていきたいという思いもありました」

湯野川「当社が開発・提供しているICT教材『すらら』のコンセプトは、『先生がいなくてもゼロからわかる』というものです。例えば約分・通分がわからないなら全部教えます、という商品特性を持っているので、とても相性が良いと思っています。つまり先ほどの富士山7合目まで自力でたどりつけない人に、まずは7合目まで乗せて連れて行ってあげるバスのような存在が、我々の提供している『すらら』だと思っています。社会人であっても、約分・通分に自信がない、割合などさっぱりわからないという人に、ここまで戻って学び直しなさいと押し付けるのではなく、さりげなく、ここが苦手ならやってみようかといった形で、義務教育の数学もやり直せる内容になっています」

「仕事に役立つ数学基礎コース」の特徴と期待する未来

――新教材の「仕事に役立つ数学基礎コース」には、どのような特徴がありますか?

湯野川「『理解』『定着』『活用』の3つができるように徹底しています。レクチャーやアダプティブなドリルがあり、理解してから問題を解く流れになっています。でも、『わかる』と『できる』は違うんです。レクチャーの後のドリルが解けても、いろんな問題がシャッフルされて出題されると解けなくなることがあるので、活用する力も必要になります。間違えたら、間違えた原因となる内容を特定して、戻って学習し直せる仕組みなので、特に今さら中学数学を学び直す自信がないといった方には、とても良い教材です」

 

髙田「できなくてもネガティブにならず、何度も学び直せる点が非常に良いと思っています。数学はわからない単元をそのままにしてしまうと、さらにわからない分野が広がってしまうんですよね。逆に言うと、1つがわかれば、他の理解にもつながっていくんです。少しずつ階段を上っていくことを経験することで、いつまでも学び続ける姿勢が身につくのではないかと思います」

――数学的思考が身につくことで、社会や未来はどう変わっていくと考えられていますか?

湯野川「不確定で先が見えない世の中には、情報から正確に物事を捉える力を身につけていくことが大事です。個々が数学的リテラシーを上げることによって、社会全体が変わっていく、良くなる方向に進んでいくのではないかと思います」

髙田「背景にあることを捉え、想像できるようになると、コミュニケーションの部分ももっと深まっていきますし、深まっていけばアイデアがつながっていって、新しいことが生み出されていくと感じています。少なくとも、そういうことを経験したり、学ぶ機会があったりしておかないと気付けないと思うので、この新しい教材がひとつのきっかけになってくればと期待しています」




 

「仕事に役立つ数学基礎コース」という教材のリリースには、算数数学の学習を通じて、すべての人たちにこれからの世の中をよりよく生きるためのスキルの習得をしてほしいという思いが込められていました。
実は私たちの生活に密着している数学的思考。この思考を習得したいというニーズは、世の中のあり方の変化に伴い、今後加速度的に増えていくと考えられます。ネット環境があればだれでもいつでもゼロから学べるICT教材「仕事に役立つ数学基礎コース」の拡大の可能性に期待が持てる対談となりました。

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■公益財団法人 日本数学検定協会 理事長 髙田忍
東京電機大学理工学部卒業後に都市計画コンサルタント会社に入社し、おもにCADを活用した都市デザインを担当。1997年より日本数学検定協会に入職し、財団法人化に向けて普及・企画開発・問題作成などに従事したほか、海外進出に向けた調査などを手がけた。2013年10月には公益財団法人への移行を主導し、2022年11月から現職。現在は「検定事業者から人財プロデュース事業者への変革」をテーマに掲げて事業を進めるほか、自身のライフワークとする「なぜ?を発見!できる人づくり」を実践すべくチャレンジを続けている。

■株式会社すららネット 代表取締役社長 湯野川孝彦
大阪大学基礎工学部卒業後にベンチャー・リンクに入社、牛角や銀のさら、カーブスなどの事業立ち上げ支援を行う。携わっていた学習塾業態に課題を感じ、2005年にすららネット事業を社内提案しスタート。2008年株式会社すららネット設立、2010年にMBOによる買収で代表取締役に就任。「多様化への対応」がテーマであった2016年の教育再生実行会議においては有識者として参画。2017年に東証マザーズに上場(現東証グロース市場)を果たし、日本のEdTech企業として業界をけん引し続けている。


仕事に役立つ数学基礎コース